
はじめに――自分の強みが分からない起業家へ
「自分の強みって何だろう?」
「SNSで何を発信すれば選ばれる人になれるのか分からない」
「セルフブランディングって、何から始めればいいの?」
個人がビジネスを展開する上で、避けて通れないのがセルフブランディングです。しかし、多くの起業家・起業志望者が「自分には特別な才能なんてない」と立ち止まってしまいます。
実は、「書くこと」こそが自分の強みを見つけ、ブランドを確立するための最短ルートなのです。
本記事では、テキサス大学の心理学者ジェームズ・ペネベーカー博士の研究に基づく「エクスプレッシブ・ライティング」の効果と、起業家が実践すべき具体的な「強みの見つけ方」を、科学的根拠とともに解説します。
1. なぜ「書くこと」がセルフブランディングの第一歩なのか?
セルフブランディングの本質
セルフブランディングの本質は、自分を実力以上に大きく見せることではなく「思考を整理し、自分という人間を正しく伝えること」にあります。
文章を書くという行為には、主に2つの大きなメリットがあります。
2. エクスプレッシブ・ライティングの科学的効果
ジェームズ・ペネベーカー博士の革命的研究
エクスプレッシブ・ライティング(Expressive Writing)は、1980年代にテキサス大学オースティン校の社会心理学者ジェームズ・ペネベーカー(James W. Pennebaker)博士によって開発された手法です。
日本語では「筆記開示法」「表現的筆記」とも呼ばれ、認知行動療法としても広く活用されています。
1986年の画期的な実験
ペネベーカー博士は1986年、ある種のライティングがメンタルヘルスに与える影響を研究しました。
実験では、被験者を2つのグループに分けました:
- 実験群:個人的なトラウマや感情的な出来事について、1日15〜20分、3〜4日間執筆
- 対照群:日常的な出来事について執筆
その結果、「個人的なトラウマ」や「感情的な出来事」について執筆した被験者には、下記のような効果が現れたと言われています。
- 健康不安のために医師を訪れる頻度が減少
- 精神的なウェルビーイングが高まった
- 免疫機能が向上(免疫グロブリンAの上昇)
- 血圧の低下
- うつや不安が改善
以来、200件以上の研究で、感情に訴えかけるライティングが心身の健康を改善することが報告されています。
3. 書くことがもたらす2つの劇的な効果
① 思考が整理され、自己肯定感が安定する
書くことは、頭の中のモヤモヤを言語化するプロセスです。
ある実験では、自分の感情や価値観、アイデンティティについてエッセイを書いたグループは、自己肯定感の低下が抑えられ、精神状態が安定するという結果が出ています。
メタ認知の向上
書くことで「メタ認知(自分を客観的に見る力)」が働き、「自分は何を大切にしているのか」「どんな価値観を持っているのか」が明確になります。
これを起業家の皆さんに当てはめて考えてみると、自分自身の価値観が明確になることでセルフブランディングの軸を定めやすくなります。結果、ブレない発信が可能になります。
② メンタルと身体のパフォーマンスが向上する
感情的な出来事やストレスを書き出す(ジャーナリング)ことで、以下のような劇的な改善効果が認められています:
- 免疫力の向上
- 記憶力の向上(ワーキングメモリの改善)
- ストレスホルモン(コルチゾール)の減少
- 睡眠の質の改善
- 血圧の低下
- レジリエンス(逆境に立ち向かう力)の向上
健康な心身は、持続可能なビジネス(ブランド活動)の土台となります。起業家にとって、メンタルとフィジカルの健康は何よりも重要な資本です。書くことは、その資本を守り、強化する最も手軽で効果的な方法なのです。
4. あなたが気づいていない「強み」の定義
強みとは「息を吸うようにできること」
セルフブランディングにおいて打ち出すべき「強み」とは「自分には自然に(息を吸うように)できるけれど、他の人には難しいこと」です。そして、それは自分の「才能」だけで決まるものではありません。
才能とは「何に興味・関心を持つか」からスタートします。自分が興味のないことをいくら頑張っても、才能の芽が大きく育つ可能性は低いと言えるでしょう。
そこに、自分がどんな経験・体験をしてきたかを掛け合わせることで、強みが確立されてきます。同じことに才能(興味)を持つ人が100人いたとしても、あなたと同じ経験をしている人は誰一人いません。才能に自分の経験をかけ合わせることで、それはあなた独自の「強み」になる可能性が生まれます。
そして、あなた自身が自分の強みを信じる情熱が必要です。どれだけ素晴らしい才能を持ち、素晴らしい経験を積んできたとしても、あなた自身がその「強み」に価値を感じなければ、人に伝えていくことはできないでしょう。
強み = 才能(興味の種) × 経験(挑戦・体験) × 情熱(価値を感じる心)
この3つの要素が掛け合わさったとき、唯一無二の強みが生まれます。
5. 強みが見つからない3つの理由
多くの起業家が「自分には強みがない」と感じるのは、以下の3つの理由からです:
理由① 自分にとって「当たり前」すぎる
「強み」や「才能」は、自分にとっては「努力しなくてもできてしまう」ことが多いです。
例えば、人が頑張って原稿用紙1枚を埋めている間に、スラスラと2枚、3枚と文章が書ける。それは一種の才能です。でも、それは自分にとっては「普通」であり「当たり前」なので、それが才能だと気づけない、ということはよく起こります。
他人から「すごいね」と言われても、「え、こんなこと誰でもできるでしょ?」と思ってしまうため、それが自分の「強み」であると認識できないのです。
理由② 経験を振り返っていない
あなたは自分がこれまでどんな経験を積み、何を学んできたのかを振り返る時間を取れているでしょうか。忙しくて振り返りができていない…という方は、過去の経験の「棚卸し」ができておらず「自分の強みが何で、なぜ培われたのかが明確ではない」というケースも多々あります。
理由③ 言葉にしていない
「言語化する」というのは、人に伝えるために必要であると同時に、自分で自分の強みを把握するためにも極めて重要なプロセスです。自分の中にある「強み」の源泉やヒント、あるいは形になっていないものを磨いて、言葉にする。そうすることで、あなたの強みはよりハッキリとした輪郭を持つようになります。
言語化されていない強みは、自分でも認識できず、人にも伝わりません。
頭の中でぼんやりと「自分は〇〇が得意かも」と思っていても、それを言葉にしない限り、ブランドになることはありません。
6. 実践!強みを見つける「棚卸し」ワーク
自分自身の強みを発見し、セルフブランディングに活かしていくために。まずは過去の経験を「言葉」にしてみましょう。
過去の棚卸し質問リスト
以下の質問に、思いつく限り答えを書き出してください。完璧な文章にする必要はありません。箇条書きでOKです。
子供時代
- 子供の頃によくやっていたことは?
- 何時間でも夢中になれたことは?
- よく褒められたことは?
- 友達によく頼まれたことは?
学生時代
- 学生時代に夢中になった経験は?
- 部活動、サークル、アルバイトで学んだことは?
- 得意だった科目や活動は?
社会人経験
- これまでの仕事で、頑張っていないのになぜか人に褒められたことは?
- 「あなただからお願いしたい」と言われた経験は?
- 他の人が苦手としているのに、自分には簡単にできることは?
価値観
- お金を払ってでも学びたいことは?
- 時間を忘れて没頭できることは?
- どうしても許せないこと、変えたい社会の問題は?
7. 毎日発信が推奨される「科学的理由」
ロバート・ザイアンスの研究
セルフブランディングにおいて毎日発信が推奨されるのは、心理学の「ザイアンス効果(単純接触効果)」にも裏付けられています。
ロバート・ザイアンス(Robert Zajonc)は1968年、「繰り返し接触することで、対象への好意度が高まる」という現象を実証しました。
ビジネスへの応用
繰り返し目に触れることで、読み手の中に親近感と信頼が醸成され、「〇〇といえばあなた」という認知が定着していきます。
- 週1回の投稿より、毎日の投稿の方が7倍の接触回数
- 接触回数が増えるほど、信頼度と好感度が上昇
- ただし、過度な接触は逆効果(飽きられる)
適度な頻度(1日1回程度)での発信が、最も効果的です。
8. 起業家のための実践ステップ——今日から始める強みの言語化
ステップ1:エクスプレッシブ・ライティングを試す(1週間)
まずは1週間、以下の方法で書いてみましょう:
- 時間:寝る前の15〜20分
- 方法:その日の感情、出来事、悩みをありのままに書く
- ルール:誰にも見せない、文法や表現は気にしない
ステップ2:過去の棚卸しをする(週末2時間)
上記の質問リストに沿って、過去の経験を書き出します。
ステップ3:共通パターンを見つける(1時間)
書き出したものを見返し、以下を探します:
- 何度も出てくるキーワードは?
- 自分が夢中になるパターンは?
- 他人からよく言われることは?
ステップ4:強みの仮説を立てる(30分)
「私の強みは〇〇だ」という仮説を、5〜10個書き出します。
ステップ5:発信する(毎日5〜10分)
見つけた強みを軸に、SNSやブログで発信を始めます。
まとめ:書くことは、自分への最高の投資
書くことは、自分との対話であり、世界に自分を表現する練習です。
言葉にすることで強みの輪郭がはっきりし、自信を持って発信できるようになります。
参考文献・出典
- James W. Pennebaker “Opening Up: The Healing Power of Expressing Emotions” Guilford Press, 1990
- James W. Pennebaker “Expressive Writing: Words That Heal” 2014
- James W. Pennebaker “Putting Stress Into Words: Health, Linguistic, and Therapeutic Implications” Behaviour Research and Therapy, 1993
- Diamond Harvard Business Review「不安やストレスを書き出すことでトラウマを克服する エクスプレッシブ・ライティングの3つのポイント」2021年
- Robert Zajonc “Attitudinal Effects of Mere Exposure” Journal of Personality and Social Psychology, 1968

